平成17年(行ウ)第12号怠る事実の違法確認等請求住民訴訟事件
原 告 花 上 義 晴
ほか20名
被 告 厚 木 市 長
2006年2月14日
横浜地方裁判所第1民事部 御中
原告ら訴訟代理人
弁 護 士 梶 山 正 三
証 拠 説 明
(甲18〜26の17号証)
証拠番号 |
証拠の標目 |
作 成 者 |
作成年月日 |
立 証 趣 旨 な ど |
甲18 (写し) |
相模興業採石場増設事業環境影響予測評価実施計画書の内容についてのお知らせ |
相模興業株式会社 |
不詳であるが、1999/12から2000/1の間 |
◆相模興業による環境影響予測評価実施計画には当初から膨大な数の車両による沿道被害は予測項目からはずされていること。 ◆上記環境影響予測評価は、採石拡大区域の周辺わずか1kmに限定されていること |
甲19 (写し) |
相模興業採石場増設事業環境影響予測評価書案の要旨 |
相模興業株式会社 |
2000/12頃 |
◆相模興業による環境影響評価は、採石拡大区域の周辺わずか1kmしかなされず、かつ、ごく近辺の住民にしかその内容は知らされなかったこと。 ◆上記環境影響評価においては、下流域および周辺の甚大な生活環境被害は評価されていないこと。 |
甲20 (写し) |
|
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2006/02/12に |
◆本件市道の廃止に関して、道路法に即した目的は存在しないこと。 ◆本件市道廃止の目的は採石事業の便宜を図る以外の目的は存在しないこと ◆本件市道廃止に関して、地元住民にはほとんど説明がなされず、自治会長などのボス交渉だけで「理解を得た」と被告は称していること。 ◆本件市道廃止により、道路としての機能が失われることを被告は認識していたこと。 ◆本件市道廃止に関して、被告は、地元住民の意向はなおざりにして、相模興業の便宜を優先して早期議決を要請していたこと ◆本件市道廃止により、採石事業の拡大がなされることによる地元住民の多大な被害に関して、被告は無関心であり、県による環境影響評価手続の終結だけを待ち望んでいたこと。 ◆本件市道廃止議案は、平成15年9月の議会では継続審議となったこと。 |
甲21 (写し) |
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2006/02/12に |
◆被告は、本件市道の廃止に関して、西山の尾根道が1281mにわたって、高さ200mも削られて山ろく地域からの景観が失われること、発句石等の歴史的価値あるものが失われること、などについて全く配慮した形跡がないこと。 ◆本件市道廃止の目的は採石事業の便宜を図る以外の目的は存在せず、被告は本件市道廃止を、ひたすら、事業者の採石拡大計画のスケジュールに合わせてなそうとしてきたこと。 ◆本件市道廃止により、道路としての機能が失われることを被告は認識していたこと。 ◆本件市道廃止に関して、被告は、地元住民の意向はなおざりにして、相模興業の便宜を優先して早期議決を要請していたこと ◆「付け替え道路」という機能不全道路に関して、被告は、無関心であり、本件市道の機能との関連性について具体的に調査検討したこともないこと。 |
甲22 (写し) |
「わたしの提案」回答書 |
被告 |
2004/07/09 |
◆被告は、本件採石拡大事業に関して、何の配慮してこなかったのに、市民に対して虚偽の事実を述べていること。 ◆本件採石拡大事業に関して、被告は、市民の問い合わせに対して、何一つまともな回答をせず、その多くは虚偽の回答であること。 |
甲23 (写し) |
住民監査請求事情聴取記録書 |
|
2005/01/12 |
◆本件市道廃止に関して、被告は、本件市道が「一般の交通のように供する必要がない」と虚偽の事実を監査委員説明していること。そもそも「必要がない」のであれば、「付け替え道路」も必要がないはずであること。 ◆本件市道廃止の目的は、相模興業の採石拡大事業に寄与すること以外に目的はないこと。 ◆ |
甲24 (写し) |
華厳採石場増設計画に関わる採石認可について(緊急要請) |
花上義晴 |
2004/12/13 |
◆本件採石拡大事業は、既存区域との境界にある尾根道を根こそぎ撤去しなければ成り立たないものであるから、既存区域と拡大区域を一体化して環境影響評価の対象にすべきものであること、及び本件に関する環境影響評価は、拡大区域のみを対象に、しかも、隣接区域のごく狭い範囲しかなされていないこと。 ◆被告は、本件市道廃止処分に関して、市政の責任者として、また道路管理者としての義務を放棄し、それらの立場に立った判断をしてこなかったこと。 |
甲25 (写し) |
華厳採石場増設計画に関わる採石認可について(再要請) |
花上義晴 |
2005/02/15 |
◆本件採石拡大事業が、西山尾根道を除去して回復不能な環境破壊をもたらすことを無視してなされたものであること。 ◆西山尾根道は、自然環境や景観の保全、貴重な森林・植生の保全、歴史的価値の保全などの見地からもその破壊は到底認められるべきではないこと。 |
甲26の 1〜17 (原本) |
黄色いチラシ |
荻田豊(編集) |
26-1 031101 26-2 031201 26-3 031201 26-4 040101 26-5 040201 26-6 040301 26-7 040601 26-8 040501 26-9 040601 26-10 040701 26-11 040801 26-12 040901 26-13 041001 26-14 041101 26-15 041201 26-16 050201 26-17 050301 |
◆西山尾根道には発句石などの歴史的価値あるものが多数残されていること。 ◆西山尾根道は、古くから多くのハイカーを迎えており、また、尾根道からの周辺の風景は出色であること。 ◆西山尾根道を存続することは多くの ◆西山尾根道は荻野中学校からの景観を奪い、さらに30年間は多数のトラックの走行と自然破壊による被害を周辺にもたらし、さらにその先においては、回復し難い重大な自然破壊を放置するものであること。 ◆被告が、本件市道廃止処分とは真っ向から矛盾する西山尾根道を「本市の観光資源」であり、「起伏に富み眺望も良い」などの認識を示していたこと。 ◆本件市道廃止処分に関して、地元への事前説明は、きわめて限られた範囲で、かつ、極めて限られた回数しかなされていないこと。 ◆本件採石拡大事業計画が認可されるかどうかは、本件市道廃止処分を拘束するものではないのに、被告担当者は地元自治会長に対してそのような説明をしていたこと。 ◆ ◆西山に近い鳶尾山では昭和45年以来の採石事業により、回復し難い重大な環境破壊を生じた事実があること。 ◆本件訴訟に至る監査請求及び提訴への経緯について |
平成17年(行ウ)第12号怠る事実の違法確認等請求住民訴訟事件
原 告 花 上 義 晴
ほか20名
被 告 厚 木 市 長
2006年2月14日
横浜地方裁判所民事第1部合議A係 御中
原告ら訴訟代理人
弁 護 士 梶 山 正 三
原告第4準備書面
本書面は、本件各市道廃止処分に関して、原告第3準備書面で述べたことを補足するものである。
1 本書面の趣旨
原告第3準備書面において、被告の主張に反論しつつ、本件各市道廃止処分が道路法の規定を無視した違法なものであることについて述べたが、それは、あくまで「被告の主張に対する認否・反論」といういわば受け身の形でのものであった。
原告らとしては、被告の上記処分が違法であることについて、単なる受け身の形ではなく、裏付けとなる多数の事実とともに積極的に主張していく予定であるが、本書面は、上記違法性を裏付ける主要な事実の要点のみを箇条書的(項目として)に述べて、とりあえずこの点に関する裁判所の注意を喚起したい。
具体的事実に基づいたより詳細な主張は、次回期日までにする予定であり、本書面はいわばその「予告編」とも云うべきものである。
2 本件各市道廃止処分の違法性に関する主要な補足事項
以下の記述した事項は、主として、甲18号証〜甲26号証の1ないし17に基づくものである。
@ 本件市道の廃止に関して、道路法に即した目的は一切存在せず、その目的はもっぱら訴外相模興業の採石事業の便宜を図るためであったこと。
A 本件市道廃止に関して、地元住民にはほとんど説明がなされず、自治会長などの「形式的ボス」への説明と交渉だけで「理解を得た」と被告は称していること。
B 本件市道廃止により、その道路としての機能が失われ、「付け替え道路」によってその機能回復が図られないことを被告は認識していたこと。
C
D 本件市道廃止により、訴外相模興業の採石事業の拡大が可能になることによる周辺地域の甚大な環境破壊と地元住民の多大な被害に関して、被告は形だけの「意見」を述べたに止まり、本質的に無関心であり、県による環境影響評価手続の終結だけを待ち望んでいたこと。
E 被告は、本件市道の廃止に関して、西山の尾根道が1281mにわたって、高さ200mも削られて山ろく地域からの景観が失われること、発句石等の歴史的価値あるものが失われること、などについて全く配慮してこなかったこと。その理由は、これらの保全よりも、訴外相模興業の利益を優先していたからであること。
F 本件市道廃止の目的は採石事業の便宜を図る以外には存在しなかったので、被告は本件市道廃止を、ひたすら、訴外相模興業の採石拡大事業計画のスケジュールに合わせてなそうとしてきたこと。
G 本件各市道の「付け替え道路」と称される「道路」が本件各市道の機能を有するものではなく、全くの機能不全であることに関して、被告は無関心であり、本件市道の機能との関連性について具体的に調査検討したこともないこと。
H 本件市道廃止に関して、被告は、本件市道が「一般の交通のように供する必要がない」と虚偽の事実を監査委員に説明していること。そもそも「必要がない」のであれば、「付け替え道路」も必要がないはずであること。
I 被告は、本件市道廃止処分に
J 被告は、訴外相模興業による採石拡大事業が、西山尾根道を除去して回復不能な環境破壊をもたらすことを十分に認識しうる立場にありながら、あえてそれを無視してなされたものであること。
K 西山尾根道は、自然環境や景観の保全、貴重な森林・植生の保全、歴史的価値の保全などの見地からもその破壊は到底認められるべきではないこと。
L 西山尾根道には発句石などの歴史的価値あるものが多数残されており、かつ、古くから多くのハイカーを迎えており、また、尾根道からの周辺の風景は出色であること。
M 西山尾根道を存続することは多くの
N 西山尾根道の破壊は荻野中学校からの景観を奪い、さらに30年間は多数のトラックの走行と自然破壊による被害を周辺にもたらし、さらにその先においては、回復し難い重大な自然破壊を放置するものであること。
O 被告は、西山尾根道を「本市の観光資源」であり、「起伏に富み眺望も良い」などの認識を示しながら、その破壊行為に邁進したこと。
P 訴外相模興業による採石拡大事業計画が認可されるかどうかは、本件市道廃止処分を拘束するものではないのに、被告は地元自治会長に対してそのような説明をしていたこと。
3 結 語
以上述べたことは、本件各市道廃止処分の違法性を基礎づける事実の一端であるが、冒頭に述べたようにこれらに関する詳しい主張は次回にする予定である。
(終)
平成17年(行ウ)第12号怠る事実の違法確認等請求住民訴訟事件
原 告 花 上 義 晴
ほか20名
被 告 厚 木 市 長
2006年2月13日
横浜地方裁判所民事第1部合議A係 御中
原告ら訴訟代理人
弁 護 士 梶 山 正 三
原告第3準備書面
本書面は、被告準備書面(3)(平成17年12月16日付)記載の主張に対する認否反論等を述べるものである。
1 同書面「第1」について
(1) 同第1項
第1段落につき、通称「西山」は、明治初年頃入会地であったものが、官有地に編入され、その後1989年(明治22,年)旧愛甲郡荻野村の村有林となったものであるが、昭和12~13年頃は村財政が逼迫していたため、村民に貸し付て賃料を取っていた経緯がある。したがって、その頃もっぱら旧荻野村の管理であったとの点は否認する。その余は、認める。
第2段落は、概ね認める。
第3段落につき、昭和33年の旧荻野村住民のうち、共有地として払い下げの対象となった者は、610名ではなく、906名であった。しかし、権利者多数であったため登記に4年間以上を要したので、その間権利放棄する者が続出し、その結果として610名が権利者として払い下げを受けたのである。その余は、概ね認める。
(2) 同第2項
第2項(1)は、概ね認める。ゴルフ場反対者が多数いたが、利益誘導や地縁・血縁による切り崩しにあって、反対運動は実らなかった。
第2項(2)は、訴外相模興業に対する西山共有地の持分売却の正確な日は定かではないが、その余は、概ね認める。
第2項(3)は、概ね認める。
第2項(4)中、共有物分割訴訟が提起されたことは認めるが、その余は否認する。被告主張の「判決」があれば、第2項(5)の経緯は不要のはずである。昭和51年の時点で、共有物の持分を有していたのは28人であった。いずれも「採石」による壊滅的な自然破壊を憂慮し、そのゆえに訴外相模興業への売却を拒んできたのである。
第2項(5)中、「その余の旧荻野村村民」の意味が不明。判決で全員について決着がついたというのが被告の主張ではないのか?「昭和51年時点における28人以外の旧荻野村村民」という趣旨であるならば否認する。その余は認める。
第2項(5)は、概ね認める。
2 同「第2」について
(1) 同第1項
括弧書きで「許可権者は県知事」とあるが、否認する。
第1項(1)は、概ね認める。
第1項(2)中、訴外相模興業が
第1項(3)は、知らない。
第1項(4)は、認める。同条例の「審査」は、事業者提出の書面審査をするだけで、この審査を通ったことは本件の争点である、「本件市道廃止処分の違法性」及び「本件土地交換契約の違法性」とは如何なる意味でも無関係である。
(2) 同第2項
括弧書きで「許可権者は県知事」とあるが、否認する。これも「許可」手続きではない。
第2項(1)中、「
上記被告の主張は、いずれも法的には誤りであるが、事実関係に関しては概ね正しい。
第2項(2)は、概ね認める。「概ね」の意味は、日付に関しては、正確を期しがたいからである。
第2項(3)は、概ね認める。
(3) 同第3項
第3項(1)につき、概ね認める。
第3項(2)中、評価書案の縦覧の手続があったこと、環境影響評価審査会による審査がなされたことは、認める。「意見書・見解書」の提出の有無は知らない。住民説明会に関しては、「説明会のお知らせ」と称する文書が存在したことは認めるが、説明会の実施については知らない。原告らが訴外相模興業に対して「説明」を求めたことはあるが、拒否されたことはある。公聴会が開催されたことは認める。
第3項(3)は、概ね認める。
(4)
同第4項
採石法・森林法に基づく手続に関して「許可権者は知事」とあるが、採石法に関しては、「認可」であって、「許可」とは異なる(法律を読んでから書きなさいね。同法33条参照)。「認可」と「許可」とは法的性格が異なることに注意すべきである。
第4項(1)につき、「岩石採取計画許可」とある部分を否認し、その余は概ね認める。
第4項(2)につき、採石法、森林法の各手続に先行して、本件市道敷地部分の所有権取得を先行する必要があるとの点及び岩石採取計画の「許可」との点はいずれも否認し、その余は認める。
3 同「第3」について
(1) 同第1項
被告の「採石区域」と「本件市道」の位置関係に関する記述は極めて不正確なので、正しく説明する。
@ 訴外相模興業が取得した西山共有地は、被告の言う「尾根道」の東側の部分から、上記「尾根道から北東方向に走る本件各市道のうち、I−519I−505、I−534、I−508、I−506、I−507の各市道等を除いた部分であって、当該尾根道も含まない」である。なお、各市道の番号については、訴状添付の別紙を参照されたい。
A 訴外相模興業が、
B 被告が無効な市道廃止処分をした部分は、被告の云う「尾根道」だけではなく、I−519I−505、I−534、I−508、I−506、I−507の各市道を含むのであるから、それらが「訴外相模興業の所有地を横断するように位置していた」のではなく、「網の目のように
当該所有地の中に存在していた」というのが正しい。
以上のように「訂正」したうえで、上記訂正に矛盾しない限りで、その余は認める。
(2) 同第2項
第2項(1)は、全部不知である。ただし、被告の云う時点で、訴外相模興業と被告との間で本件市道の廃止及び払い下げについて「話はついていた」筈であるから、仮に、被告の云うようなことがあったとしても、それは単に「形式を整える」ためであろう。
第2項(2)は、全部不知である。
なお上記に関する被告の主張が不分明な点があるので、それを指摘する。すなわち、
なお、訴外相模興業が「開発計画」に関して、地元の了承を得た事実はないので、仮に同社がそのように述べたとしたら、それは虚偽の事実を述べたことになる。
第2項(3)は、概ね不知である。なお、訴外相模興業から、真弓、上飯山の自治会長に対して、市道付け替えの説明がなされたとの噂は聞いているが、同自治会の住民に対する説明がなされたとの話は聞いていないし、利害関係の深い原告らにも説明を受けた者はいない。住民に説明せず、ごく一部の自治会長だけにそっと説明しても何の意味があろう。
第2項(4)中、「
4 本件市道廃止処分が無効であることと被告主張との関連性
被告は、以上の手続、すなわち、
以下、上記の点について述べる。
(1)
道路法による道路管理行為ではないこと
道路法1条は次のとおり規定する。
「この法律は、道路網の整備を図るため、道路に関して、路線の指定及び認定、管理、構造、保全、費用の負担区分等に関する事項を定め、もつて交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進することを目的とする。」
すなわち、本件市道廃止処分は「道路網の整備を図るため」ではなく、また、「もって交通の発達に寄与し、公共の福祉を増進する」ものでもないことは明らかだから、道路法に基づく道路管理者の行為とは到底いえないことは明らかである。被告は、「訴外相模興業の採石事業の便宜を図る」ためであることを強調するが、それは明白に道路法の趣旨に悖るのであり、道路法の目的とは異なる目的で、本件各市道の廃止処分がなされたこと、同処分が、同法に「名を借りた違法行為」であることを自白するものである。
「付け替え道路」が「廃止された道路」よりも「道路網として優れている」という場合には、本件市道廃止処分を「道路法に基づく行為」と見る余地はあるが、被告には上記の主張はない。本件の場合には、「付け替え道路」は明白に「廃止された道路」よりも、道路網としても劣悪だから、被告がそのような主張ができないことは無理からぬことと同情するが、被告の主張を読むと、「訴外相模興業の採石事業の拡大」に如何に寄与するかということしか興味がないことは明白であって、そのために、被告準備書面(3)は「採石事業の言い訳」に終始しているのであって、道路管理者としての道路法の趣旨に沿った主張ではないことは誰の目にも明白である。
被告の本訴における主張は、正に「相模興業の利益の代弁者」であり、その書面を読むと、あたかも相模興業の代理人が書いた書面であるかのような錯覚に囚われるのは当代理人だけではないであろう。
道路法10条1項は、次のとおり規定する。
「都道府県知事又は市町村長は、都道府県道又は市町村道について、一般交通の用に供する必要がなくなつたと認める場合においては、当該路線の全部又は一部を廃止することができる。路線が重複する場合においても、同様とする。」
すなわち、市道の廃止処分はそれが「一般交通の用に供する必要がなくなったとき」に限定されるのである。ところが、本件においては、本件各市道が「一般交通の用に供する必要がなくなった」ことに関する被告の主張はない。被告の弁解は、ひたすら、「訴外相模興業の採石拡大事業が条例や法の手続きに則って行われた」というに尽きるのである。このことと、本件市道の必要性は何ら関係がない。
被告の主張が、道路法の趣旨や規定を無視し、「道路網の整備・発達」や「一般交通の用に供することの必要性」に触れず、道路法の趣旨や規定とは無関係な条例や法令の手続のみに言及しているのは、前述のとおり「何か勘違いしている」と解するほかはない。
なお、被告は、「付け替え道路」をもって「機能回復道路」というが、本件で問題にしているのは「市道廃止処分」それ自体であるから、「付け替え道路の認定」が仮に道路法上の行為とみなされるとしても、「市道廃止処分」は道路法に即した目的は有し得ないのである。その点を混同しないように。なお、「付け替え道路」が本件各市道の「機能回復道路」であるとの被告の主張は否認する。本件各市道の機能は付け替え道路によって全く回復されていない。
(2)
訴外相模興業の採石拡大事業が、上記条例による審査を経たことと、本件市道廃止処分が違法であることとは何の関係もない。被告は、「採石事業」の弁解さえすれば、本件市道廃止処分が「道路管理者の行為」であるということになると考えているのだろうか?不可解と云うほかはない。
(3)
被告は、訴外相模興業の採石拡大事業が上記条例の審査を経たことが、本件市道廃止処分を「道路管理者としての道路法に基づく行為」であることを根拠付けると考えているようだが、理解に苦しむ。
既に縷々述べたように、本件市道廃止処分が道路法に基づく適法な行為であることを言うためには、道路法1条、同10条1項の規定により、「道路網の整備を図る目的」又は「一般交通の用に供する必要がない」ことの主張立証が必要であるのに、そのことと、「採石拡大事業」が上記条例の審査を経たこととは如何なる意味でも結びつかないからである。
被告は、上記関連性に関して明確な主張をなすべきである。
なお、上記条例の手続に関して若干補足しておこう。
@ 上記条例に基づく環境影響評価は、訴外相模興業の採石拡大事業の周辺環境への影響を審査するに過ぎず、当該審査の結論又は当否は、如何なる意味でも被告の道路管理者としての本件市道廃止処分を拘束するものではない。被告は、道路管理者として、また、
A 本件採石拡大事業のアセスメントを実質的に見てみると、とてもまともな「アセスメント」ではないことに気づく。
もともと日本のアセスメント制度は、「事業者が自分で評価データを提出して、自分で評価する」という無意味なもの(都合の悪いデータは事業者の裁量でどうにでもなる)で、かねてから「アワスメント」(当初からの「結論」に形式的に合わせるだけ)と揶揄されるほど評判の悪いものだが、本件に関しては特にひどい。
これほど大規模な採石事業で、周辺を毎日1000台もの大型トラックが走り回り、山陵を200mも削り、周辺河川、農業用水に甚大な影響を及ぼすので、その影響範囲は、少なくとも5~10km、水系に関しては、下流域全体に及ぶので相模湾に至る約30km下流にまで及ぶことが容易に予測されるのに、「環境影響評価」の実施範囲は、半径1kmという馬鹿げたものである。しかも、大型トラックが1日1000台も走り回るという甚大な交通公害に関しては、評価項目にも入っていない(道路交通の危険性に関してはわずかに触れている)。これほどのでたらめアセスメントも珍しい(甲18,19号証)。
B 被告は、上記環境影響評価手続において、
「西山は本市のハイキングコースに指定していないが、起伏に富み眺望も良いコースとして知られ、多くの登山者が経ヶ岳・華厳山・高取山と稜線(上飯山・平山間)を歩いている。また、西山には、発句石、子蚕石等もあり山全体として本市の観光資源の一つであることから、景観が大きく変化しないよう配慮すること。」
上記被告の「回答」は、本件市道の道路交通上の重要性と同時に
さらにいえば、本件採石拡大事業が、西山の稜線を壊滅させ、それを高さ200m×長さ1281mにもわたって削り取るという恐るべき景観と環境の破壊行為であることは被告にとって周知の事実のはずである。それを周知しているはずの被告が、「景観が大きく変化しないように配慮すること」などと矛盾したことを平然と回答するという破廉恥さはいったい何であろう?被告には
(4)
採石法、森林法の手続との関連性について
訴外相模興業の採石拡大事業が、採石法、森林法の手続をクリアしたとしても、それは本件市道廃止処分の違法性を阻却する事由にならないことは明らかである。「市道廃止処分」には道路法上の目的がなければならず、また道路法の規定にその根拠がなければならない。採石法、森林法との関連性は到底見出すことができない。
被告は、ここでも「大きな勘違い」をしている。
5 結 語
被告準備書面(3)の主張は、要するに、本件市道廃止処分及び本件土地交換契約の違法性とは無関係な事由の羅列である。被告は、上記採石拡大事業が他の法令で容認されれば、被告は、それに協力しなければならないとでも考えているのであろうか。そうだとしたら、それは被告が法令に余りに無知であることの証左といわなければならない。
行政処分における「他事考慮の禁止」は、当該行政処分がその根拠法令に即してなされなければならず、他の法令に関する事情を考慮することを禁じたものだが、「法律による行政の原理」という法治国家の理念に合致するものである。
しかるに、被告のように、「他事ばかり考慮して、本来考慮すべきことを考慮しない」(道路法という道路管理者として依拠しなければならない法令を無視して、他の無関係な法令のことばかりを述べる)というのは、行政庁としてあってはならないことである。被告が訴外相模興業と癒着して、その便宜を図るために本件市道廃止処分をしてきた経緯は明らかだが、被告準備書面(3)は、はしなくも、被告の「本音」を白日の下に曝け出した。
被告の上記書面は、本件市道廃止処分の違法性をさらにいっそう明らかにするものであり、それを宣言するものといっても過言ではない。
(終
原告第2準備書面
平成17年(行ウ)第12号怠る事実の違法確認等請求住民訴訟事件
原 告 花 上 義 晴
ほか20名
被 告 厚 木 市 長
2005年12月16日
横浜地方裁判所民事第1部合議A係 御中
原告ら訴訟代理人
弁 護 士 梶 山 正 三
原告第2準備書面
本書面は、裁判所の示唆により、本訴請求の趣旨に関して検討した結果に基づき、その変更について述べるものである。
1 請求の趣旨の変更
訴状請求の趣旨第1項を下記の通り変更する。なお、同第2項は訴状どおり(変更なし)であるが、念のため下記に記載した。
記
1 被告が、
2 被告が、平成15年12月26日付で告示した別紙「廃止された市道の目録」記載の
2 上記変更にともなう請求原因の変更
訴状において、本件土地交換契約は、違法である旨を述べたが、本件土地交換契約は、単なる違法に留まらず、無効である。したがって、訴状において「元
然るに、被告は、同土地を訴外会社に引き渡し、訴外会社は、同土地部分周辺にロープを張るなどして、
3 本件土地交換契約の違法事由
本件土地交換契約の違法事由及びそれが無効である理由については、原告第1準備書面5〜6ページ、訴状6〜10ページに述べたとおりであるが、要点を整理する。
@ 本件市道廃止処分は無効であるから、本件市道は依然として行政財産である。したがって、本件土地交換契約は、行政財産の処分を禁じた地方自治法238条の4第1項に違反するもので違法であり、同第3項及び同法2条16項、17項により無効である(原告第1準備書面5〜6ページ)。
A 本件土地交換契約は、仮に、本件市道が普通財産だと解されるとしても、
B 本件市道が、仮に普通財産と解されるとしても、本件土地交換契約は、市民にとって貴重な同市の財産を失わせるものであって、違法である(訴状7ページ)。本件土地交換契約は、
C 本件土地交換契約は、著しく市民の福祉と健康を害するものであって、違法である(訴状8〜10ページ)。
地方公共団体の行政事務は「住民の福祉の増進を図ることを基本として」なされなければならない(地方自治法1条の2第1項)。また、前述のとおり、地方公共団体は、その事務を処理するに当って、住民の福祉の増進に努めなければならない(地方自治法2条14項)
訴状に述べたとおり(2〜4ページ、8〜10ページ)既存の華厳採石場は1970年(昭和45年)頃より30年にわたる採石で終掘に近い状況にあって、周辺住民は永年のトラック公害からようやく免れ、あるいは、絶大な自然破壊もようやく終止符を打つ日も近いと期待していたところ、本件土地交換契約によって、市道保全のための許可条件(保安距離を含む、ひな段状に残された段丘)が除かれることになり、まさに従来以上の、しかも、さらに30年間も継続する大量の再採石と1日往復1000台もの砂利トラックの公害に苦しめられるおそれが現実のものになりつつある。
本件採石場増設事業が実現した暁には、1日10tダンプ1000台(往復)の横行が見込まれ、交通被害の急増が確実視される。現状において、すでに、登校時児童の安全確保のため保護者が交替で旗を振り、運転者の協力を求め、児童を誘導するなどの例も見られ、受忍の限界に達している。
更に深刻なのは排気ガスや道路粉じん、騒音などの被害である。ちなみに、10tダンプ1台の窒素酸化物排出量は3000ccの乗用車30台分に相当するとされている。そうすると、往復1000台は、3000ccクラスの乗用車3万台にも匹敵する交通量の激増に相当する。これらが自動車公害、沿道被害を発生させ、さらに交通事故の危険をも招くことは見やすい道理である。市民の受ける健康被害・生活上の被害(いわゆる生活妨害、欧米法で言うところのニューサンス)は測り知れないものがある。
このような著しい公害を撒き散らす採石場拡大計画は本件土地交換契約によってもたらされるものだが、それが上述の市民福祉の増進に真っ向から反するものであり、かつ、それを著しく害するものであるから、地方自治法1条の2第1項、2条14項に違反して違法である。よって本件土地交換契約は、地方自治法2条16項、17項により無効である。
4 市道廃止処分の違法事由について
本件市道廃止処分が違法であり、そのゆえに無効であることに関しても、要点を整理する。
@ 本件市道廃止処分は、道路行政上の目的を有しないのに、それあるように装ったもので、道路行政上の目的が欠けている処分であるから違法である。被告が言う「道路の付け替え」は、本件市道廃止処分がなければ、そもそも必要のないものであるから、上記処分の「目的」とはいえない(原告第1準備書面7〜11ページ)。目的のない行政処分は許されないし、仮に次に述べるように「本件土地交換契約」を目的とする処分であれば、財務会計上の違法な行為である。
A 本件市道廃止処分は、それ自体において違法な財産処分(本件土地交換契約の違法事由については上述。ただし、市道廃止処分が無効であるが故の違法事由は「循環論法」になるが、その他の違法事由は、「仮に普通財産だとしても」違法だという趣旨である)を目的とする財務会計上の行為であるから、財務会計上の行為として違法である。
B したがって、本件市道廃止処分は、財務会計上の行為であるから住民訴訟の対象になる。
法令に反した行政処分が無効であることに関しては、既に何度も述べているように、地方自治法2条16項、17項による。
以 上