西山訴訟最終準備書面

平成17年(行ウ)第12号怠る事実の違法確認等請求住民訴訟事件
原告花上義晴
ほか20名
被告厚木市長
2006年12月日
横浜地方裁判所民事第1部合議A係御中
原告ら訴訟代理人
弁護士梶山正三
原告最終準備書面
1 はじめに
証人尋問をおえて、被告の主張が支離滅裂であることがいっそう明らかに
なった。
本件市道廃止処分は、道路法上のものであり、道路の廃止・付け替えによ
って道路網の整備を図るものだというのが、おそらく被告の主張と思われる
が、その主張とは裏腹に、被告は、「相模興業の採石拡大事業が、法定の諸手
続をクリアしてきた」「だから、それに協力するのだ」という道路法上の目的
とは無関係な事由しか主張してこなかったし、被告側証人である厚木市道路
部長宮台功(以下、「証人宮台」という)は、「どの道路を廃止し、どの道路
を新たに認定するか」については、相模興業の採石拡大事業がその全ての理
由であるかの如き証言を繰り返した(これらの点は後に詳しく指摘する)。
要するに、被告の頭には、道路法上の目的以前に「まず、相模興業の採石
拡大事業を支障なく貫徹させる」ことしか念頭になかったのである。
もちろん、上記拡大事業が、市民利益を何ら侵害せず、かつ、法的にそれ
を止める手段がない場合には、市道の付け替えも必要になって来るであろう。
 

しかし、本件は到底そのような場合ではなかったのである。
 
2 相模興業の採石拡大事業と本件違法処分の関係
被告の主張が誤りであるゆえんは、後に詳しく述べるが、冒頭に被告の誤
謬の核心的な部分について端的に述べておきたい。
被告の主張は、次のように理解される。三段論法で述べる。
 
---------------------------------------------------------------------
(大前提)
A 相模興業による西山尾根道の荻野側に採石拡大事業(開発事業)が行われ
ることになっている。
(小前提)
B 上記開発行為は、法定の諸手続をクリアしているから全面的にそれに協力し
なければならない。
又は
B’本件各市道を廃止することは法的には義務ではないが、これら市道の周辺
で市道のみを残して開発行為が行われると、残された市道の通行が危険又は
通行の用に供するのに不適切な状況になるから市道を廃止して付け替え道路
を整備した方が道路整備の目的に適う。
(結論)
C よって、本件各市道を廃止することは道路管理者として違法ではない。
---------------------------------------------------------------------
 
被告の主張は、「小前提」であるBとB’のどちらかということについては、
後述するが、証人宮台の証言及び被告の姿勢は議会中を通じて「B」であっ
た。つまり、「相模興業の採石事業拡大」が全てに優先するのである。
反論する意味があるとしたら、「B’」の主張なので、ここでは端的にその
誤りを指摘しておく。裁判所も、仮に市道を廃止しないと、周辺で開発行為
が行われて市道が危険な状態になるのではないかと考えていたフシがある。
それが、誤りであることを、次ページ以下の図で例示的に説明する。
 

《図 zu1.gif》
上の地図は、西山尾根道(I-705)と荻野側から同尾根道にとりつく派生尾
根道(I-519 とI-505)の部分を拡大したものである。この3本の尾根道はい
ずれも今回の「市道廃止処分」の対象になっている。
これらの市道が廃止処分されず、周辺で相模興業による採石拡大事業が行
われたとする。その場合、市道が残存しているので、市道崩壊の危険を及ぼ
さないようにその両側に階段状の基礎を残さなければならない。
《図 zu2.gif》
 

前ページの写真は、中央に西山尾根道があり、右が荻野側、左が既設の採
石場であるが、採石場側は階段状に尾根道の基礎部分を残していることが分
かる(写真は甲94 の2 を一部拡大したもの)。
このように市道の両側に階段状の基礎を必ず残さなければならないので、
決して危険はない。つまり、市道を残存し、仮にその両側で採石事業が行わ
れても、市道の維持管理に問題はなく、通行者にも危険を及ぼすことはない。
次に事業者である相模興業から見ると市道の残存は決定的な意味がある。
模式的に下の図でそれを説明する。
 
《図 zu3.gif》
 
違法に廃止された市道のうち、I-705,I-505,I-519 の3本の市道の位置関
係を単純化して示すと(前ページの地図参照)、このページの上の図(点線
より上の部分)のようになる。
派生尾根であるI-519 とI-505 の部分を西山尾根道に平行な断面で切って
みるとこのページの下の図(点線より下の部分)のようである。青色部分が
もとの山波である。市道を残存させたまま採石拡大事業をやっても、緑色部
分は残さなければならないので、採石可能な部分はこの図で青色の部分だけ
 

である(これに対して、これら市道が廃止されていれば、緑色と青色部分を
併せて採石できる)。
このように、市道が廃止されない場合と廃止される場合では、採石可能量
が全く異なる。しかも、前ページの図で分かるように、荻野側の麓に近づく
ほど採石可能量はもっと減少し、また、西山尾根道に近づくと同尾根道の基
礎部分も残さなければならないので、ほとんど採石可能部分がない。
要するに、これらの尾根道が廃止されずに残存すると、採石可能量は僅か
であり、しかも、困難である。したがって、採石拡大事業それ自体が成り立
たないと解して誤りはない。つまり、単に「市道を残存させて、市道周辺で
採石事業が行われても危険がない」にとどまらず「そもそも採石事業それ自
体が成り立たない」ということになるのである。
以上のとおり、被告の主張の「小前提」である、前記「B’本件各市道を廃
止することは法的には義務ではないが、これら市道の周辺で市道のみを残して開
発行為が行われると、残された市道の通行が危険又は通行の用に供するのに不
適切な状況になるから市道を廃止して付け替え道路を整備した方が道路整備の
目的に適う。」なる主張は、そもそもその前提を欠き、失当である。
その余の被告主張はさらにナンセンスであることは後述するが、単純に「開
発行為が予定されているから、当該開発行為の妨げになる市道は廃止しなけ
ればならないのだ」という闇雲な開発行為優先行政が成り立たないことは自
明であるから、前記「B 上記開発行為は、法定の諸手続をクリアしているから全
面的にそれに協力しなければならない。」が誤りであることは多言を要しない
であろう(これについても、念のため、後でその誤りを指摘しておく)。いず
れにしても、道路法上の目的は一切ないので、法で容認される目的もないの
に「厚木市民及び厚木市の貴重な財産をオオカミに投げ与える行為」と評す
ることができる。
 
3 本件市道について〜歴史的経緯と道路法との関係
(1) 本件市道の歴史的経緯
 

違法に廃止された市道には、西山尾根道(I-705)のほか、荻野側からそれ
に至る多数の派生尾根が含まれることは既に何度も述べた。これら市道が、
明治以前から多数の人に歩かれてきた由緒ある道路であることについては、
既に多数の書証を提出して立証してきた(甲12〜16、甲26 の1〜17、甲30
〜44、甲45〜80、甲84〜85 など)。
西山尾根道の標高は、廃止された部分だけに限ると、ほぼ400〜500 メート
ルであり、若者からお年寄りまで気軽に山歩きが楽しめるハイキングコース
である。東京近郊でハイキングコースとして著名な尾・陣場ハイキングコ
ース、ヤビツ峠〜大山ハイキングコース、秩父正丸峠ハイキングコースなど
と比較しても、標高が低く、コースの高低差も険しいものではない。景観に
も優れており(甲92〜102 など多数)、被告厚木市長でさえも「本市の観光
資源」「起伏に富み眺望も良い」と褒め称えているほどである(甲10、甲26
の1〜17)。
古来からの修験道であり、飯山に抜ける一般道としての往来もあり、尾根
上には、発句石その他の多くの史跡を残していることは既に多数の書証を提
出しているので、それらを引用する(甲12〜16、甲26 の1〜17、甲31〜44
など)。
 
(2) 道路法の施行、認定、供用開始の経緯について
旧道路法は、1919 年(大正8 年法律58 号)に成立し、翌1920 年4 月に
施行され、現在の道路法の施行により、廃止された。その第1条に「道路」
の定義がある。道路とは「一般交通の用に供するもので、行政庁が認定した
もの」をいうとされている。つまり「一般交通の用に供する」ことと「行政
庁の認定」が道路としての要件である。なお、旧道路法には「供用開始」に
関する規定はない。
現在の道路法は、昭和27 年に成立・施行された(昭和27(1952)年6 月10
日法律第180 号、昭和27(1952)年12 月5 日施行)。その第2条1項に「一
般交通のように供する道」という要件がおかれ、道路の種類の1つとして「市
 

町村道」があり(第3条4 号)、市町村道と認められるためには、市町村長
による「認定」が必要である(第8条1項)。
そうすると、旧道路法及び現在の道路法も「道路」の定義は基本的に同じ
であって、市町村道を例に採れば「一般交通の用に供するものとして、市町
村長が認定したもの」ということになる。
逆に言えば、「市町村長が道路として認定したもの」は「一般交通の用に供
するもの」ということになる。
なお、「供用開始」の意味について一言述べておく。
新たに道路を開設する場合(幅員の変更などにより、道路範囲が工事によ
り広がる場合やもともと道路でなかった部分を新たに取り込む場合も含む)
は、まず路線認定→区域決定→権限取得→供用開始という一連の手続により、
一般交通のように供されることとなる。この場合には、「認定」だけでは、一
般交通の用に供し得る状態にないので、当該状態に達した際に、新たに一般
交通のように供するという行政庁の意思表示が必要となる。
本件各市道は、厚木市長による認定道路であったが、1985(昭和60)年4
月1 日、厚木市内の全ての市道(5502 路線)の再編成時においても廃止され
ず、認定市道として残された(再編成の作業においては、廃止された市道と認定され
た市道が重なる場合がしばしばある。「廃止」は路線の一部についてなすことは原則として許
されない(起点と終点の間に他の路線との交点がある場合などは例外)ので、ある路線の一
部のみを認定路線として残すためには、全部を廃止した後、その一部を認定するという手法を
取るためである。その場合、認定された「一部」は一旦廃止されて、かつ、同時に認定されると
いうことになる)。
以上に付き、甲89、甲90 の1〜6 参照。
このように、「認定された路線」ということは、道路法の定義によれば、「一
般交通の用に供する道」だということになる。
なお、被告が本件各市道は「認定市道」ではあったが、「供用開始していな
い」と主張しているので、それについて、補足しておく。
@ 一般交通の用に供する必要がなければ「廃止」するのが筋であって、認
 

定しながら、未供用というのは筋が通らない。また、本件各市道は、そも
そも道路法上の供用開始の手続を必要とする場合に該当しない。
A 本件各市道の廃止(一部再認定も含む)、付け替え市道の認定に際して、
これらの道路が「供用」なのか「未供用」なのかという点は、議会の委員
会審議、本会議の審議を通じて一度も問題にされておらず、本件訴訟にお
いても、答弁書及び被告準備書面(1)〜(3)までは、全く問題にされていな
い。このことは、本件各市道が当然「供用開始された路線」であることを
意味している。
B 被告が、本件各市道が「供用」か「未共用」かについて、明確な証拠を
提示したいのであれば、5502 本の市道再編成を議決した昭和60 年3 月定
例議会に提出された「議案第26 号」の「別冊公示書類の添付文書」(甲90
号証の2)及び同年4 月になされた市道路線の「廃止」「認定」「供用開始」
の各告示起案文書(甲91)の添付書類を書証として提出すべきである(こ
れら添付文書は内容は全く同じものと解される)。それらが唯一、かつ、確
実な書証だからである。然るに、原告らが、これら添付書類を厚木市条例
に基づきその公開を求めたところ、「不存在(存在が確認できない)」と
の信じがたい答えが返ってきた(甲90-2 の2枚目)。
C 上記のように、最良の証拠については「紛失」等したはずなのに、被告
は、乙13〜18 号証を提出して、本件各市道は「未供用」だと強弁してき
た。しかし、これらが実にいかがわしい証拠であることは、先日の文書
(2006 年12 月18 日付け「被告からのアンフェアな書証提出について」)
で指摘した。この「いかがわしい書証」については、必要ならば、それが
全く信用できないゆえんをさらに明確にすることができる。結審の弁論期
日が延期されたのでその点に関して調査する余裕ができた。ただし、本件
訴訟の争点に関して、どれだけの意味があるかについては疑問なしとしな
い。
D 被告の主張による「未供用の道路」については、管理する必要もないし、
そこで、何が起きても責任を負わないということのようであるが、そもそ
 

も、認定道路であって、「未供用」なのかどうか、通行人には全く不明の状
態にある道路にそのような屁理屈が通るはずはない。現実に、被告は、必
要に応じて「管理している」ことを、本件監査請求におけるヒアリングに
際して、監査委員に対して、明確にそれを認めており、かつ、管理費用の
支出をも認めている。
「要望があったときとか、現地を確認した時とか、必要に応じて管理をしておりま
す」(甲23 の5 ページ・道路管理課長の発言)
 
4 本件市道廃止処分の経緯〜手続的違法と目的の違法
(1) 本件市道廃止処分と「原因者」〜道路法と無関係な処分
本件市道廃止処分が「道路法上の行政処分」と云い得るためには、次の2
つの要件を満たす必要があろう。
第1に、道路法の目的である「道路網の整備」(同法第1条)に資するも
ので、かつ、道路法10 条により「一般交通の用に供する必要がなくなった」
ときであること。
第2に、厚木市民の福祉の増進を図るものであること(地方自治法1条の
2)。
ところが、本件市道廃止処分は、次の点で上記要件を全く満たさないもの
である。
@ 本件市道廃止処分は、訴外相模興業の採石事業の拡大を可能にするため
にのみなされたものであって、道路網の整備という目的はない。
A 訴外相模興業による採石拡大事業は、厚木市民の福祉を蹂躙することは
あっても、その福祉を増進することはない。
上記の事項は、既に何度か述べてきたが、関連証拠をも示しつつ、具体的
に述べる。
@ 本件市道廃止処分は訴外相模興業の採石事業の拡大を可能にするためにの
みなされたこと、及び道路網の整備という目的はないこと
 

まず、厚木市担当者の議会等における言動に上記の点が明確に現れてい
る。具体的に摘示する。
「市道の付け替えについて、付け替えの原因者である相模興業から地元自治会
長等に対して説明が行われました。」(乙12 の2 ページ末尾、傍点は原告代
理人以下同じ)
「道路管理課は民間事業による道路の付け替えのときは、原因者である事業者
が地元自治会長に説明した上で、同意を得るように指導しておりますし」(乙13
の4 ページ8 行目)
「事業者の今後のスケジュール等もございますので、委員さん言われるように、
地元の調整がまだ不十分だと、そういうお話しではございますけれども」(甲20
の7〜8 ページ・道路管理課長の発言)
「この事業につきましては公共事業ではございません。あくまでも事業者が原因
である事業ということで、原則的に説明につきましては事業者の方から行ってお
る、そういうことでございます」(甲21 の13 ページ・道路管理課長の発言)
市道の廃止・認定は、厚木市長が責任をもって行うべき道路行政上の行
為のはずである。しかし、上記各発言は、「相模興業の採石拡大事業が本
件各市道廃止処分の全ての原因」であり、したがって、「地元説明も事業者
がやるのだ」という倒錯した観念に取り憑かれている。仮に、相模興業の
採石場拡大が不可避であるとしても、市道の廃止・付け替えは、被告が責
任をもってやるべきことは当然であって、一民間企業にそのような「地元
説明」を任せていいはずがない。また、相模興業が市道の廃止・付け替え
を地元住民に説明するはずがないことも自明であろう。ここまで感覚が麻
痺しているのは異常である。
 
一般にある民間ないし公共の開発事業が行われる場合に次の2つのケー
スが考えられる。
10
 

--------------------------------------------------------------------
その1
開発行為がなされることが不可避(厚木市長として阻止する方法がない)

そのため、開発行為がなされることにより、既存の市道が通行に不適当か又
は通行が危険になる

通行危険又は通行不適切な市道を廃止して、付け替え道路を認定する。
--------------------------------------------------------------------
その2
開発行為がなされることが、必ずしも不可避ではない

仮に、開発行為をなされても、既存の市道が、通行不適切になったり、通行
に危険になると言うことはない

市道の廃止・認定処分は当該開発行為の是非又はその有無に左右されず、
道路法の本来の目的に沿ってなされれば足りる。
--------------------------------------------------------------------
 
仮に、訴外相模興業の採石場拡大事業が、厚木市長にとって不可避なも
のであり、法的に見て、それを阻止する手段がなく、又は、それを容認す
ることが厚木市民の福祉の増進に欠かせないというような場合には、通行
危険な道路を「付け替える」ことは「道路網の整備」なる道路法の目的に
も合致し、また、既存の市道が「危険になる」ことは「一般の通行の用に
供すべき場合ではない」ということになるから、廃止処分も道路管理行政
に合致するということになろう。
しかし、本件各市道廃止処分は、そのような場合ではない。本書面の冒
頭に述べたように(本書面2〜5 ページ)、相模興業による採石場拡大事業
は、本件各市道の通行に危険をもたらすものでもないし、仮に、本件各市
道が廃止されなければ、相模興業の「採石拡大事業」もほとんど不可能で
11
 

あることは、既に「図解」しつつ、具体的に指摘した。
この点は、原告本人花上義晴及び同荻田豊も証言しているとおりである
(原告花上調書10〜12 ページ、原告荻田調書10〜11 ページ)。常識的に
見ても、西山尾根道の他、それに至る多数の派生尾根について、全て「保
安基準」を遵守(甲94-2、95、96 などの写真、本書面3 ページの写真な
ど)していたら、採石場拡大部分(西山尾根道の荻野側)で、採石をして
もほとんど採取できる部分がないので、仮に技術的に可能だとしても、採
算に合わず、訴外相模興業が断念するであろうことは、誰の目にも明らか
であろう。
したがって、本件の場合は、上記「その2」の場合に該当する。被告は、
相模興業による開発行為の是非や当該開発行為がなされるかどうかを顧慮
することなく、道路法上の目的に沿うかどうか、厚木市民の福祉の増進に
適うかどうかのみを考慮して、本件各市道廃止処分に関する判断をすれば
足りるし、それ以外の要素を考慮することは、行政行為として、いわゆる
「他事考慮の禁止」の観点からは違法になる。
被告の担当者が、「相模興業の開発行為」の便宜を図ることしか念頭にな
かったことは、既に述べたが、そうであれば、本件市道廃止処分は道路法
に照らして、その目的を欠き、明らかに違法なのである。
なお、廃止された道路よりも、付け替え道路の方が、道路としても良好
であり、通行にも適しているということであれば、相模興業の開発行為と
の関連性を離れて、本件各市道廃止処分を道路法上の適法な処分と解する
余地もあるが、現実には、「付け替え道路は、危険な道路、維持管理費用
も嵩む道路、非常に歩きにくい上に、大量の山蛭に襲われる恐怖の道路、
ゴルフボールの直撃を受けるおそれも強い危険な道路」であって、その点
でも西山尾根道とは雲泥の差があることは、既に原告第6準備書面で縷々
述べたとおりであり(書証の引用も参照)、原告荻田もそれに関して具体的
な証言をしている(荻田調書5〜9 ページ)。なお、甲95 以下の多数の写
真、甲45〜80 の多数の陳述書もそれを裏書きしている。
12
 

A 訴外相模興業による採石拡大事業は、厚木市民の福祉を蹂躙することはあっ
ても、その福祉を増進することは決してないこと
相模興業の開発行為が、厚木市民にとって「百害あって一利なし」であ
ることに関しては争う余地がないであろう。実は、被告自身もそれは「良
く知っていた」と考えられる。
被告は、訴外相模興業による2回にわたる鉱業試掘権設定願いに関する
神奈川県からの照会に関して平成9 年と12 年の2回とも「同意できない」
旨の回答をしている(甲103〜105)。ただし、1回目の回答は、理由も詳
細であり、具体的であるが、2回目の回答は、結論は「同意できない」で
あるが、内容的には投げやりで後退している。
これは、1999(平成11)年の被告と訴外相模興業の「覚書」(甲27)締
結と関連性があると見るのが素直である。
訴外相模興業による採石拡大事業は、荻野地域及びその周辺の人々にと
つては塗炭の苦しみをもたらすだろう。その自然破壊の巨大さは希有であ
る。地域の環境保全と住民の福祉の増進が、被告にとって、最も重大な責
務の1つであることを思えば、「相模興業の莫大な利益」に奉仕するために、
本件市道廃止処分を行い、「厚木市民に巨大な害悪をもたらす本件開発行
為」の実現に積極的に協力した被告の罪はいくら弾劾してもし過ぎという
ことはない。
西山尾根道をめぐる厚木市民の熱い想いは、既に多数の書証で証明した
(甲45〜80)。山麓では校歌にもなり、毎日それを「故郷の山」として見
て育った多数の厚木市民が居る。西山尾根道の景観的価値、ハイキングコ
ースとしての価値、歴史的文化的価値等については、既に何度も述べてき
たので繰り返さない。関連書証も多数提出しているので、是非それを熟読
玩味して頂きたい。この山を「亡きものにする」ことが如何に罪深いこと
かお分かり頂けるものと思う。
(証人宮台の「屑籠いっぱいの嘘」について)
なお、西山尾根道のような老若男女が楽しみながら登れるハイキングコ
13
 

ースに関して、証人宮台の証言は、実にひどい。同証人の証言の信用性に
も関わるのでいくつか指摘しておく。
「ハイキング等についての利用はないというふうに聞いております」(宮台調書4
ページ)
「非常に通行も困難な場所であるということ、また隆起等の形態としてもそのよ
うな形の現況であるというふうに聞いています」(宮台調書4 ページ)
「私自身も何度かその近くまで、近くといいますか、ふもとまで行って状況を見た
ときにそのような利用実態がなかったというふうに認識しております」(宮台調書
4 ページ)
「登山道あるいは登山客が利用する道路というのは一般的に言いましても、あ
る程度その険しい道のり、あるいはその利用の実態としても現地の状況からそう
いった登山客が利用するような、そういった地理的な状況でもないというふうに
理解」(宮台調書6 ページ)
「利用実態がほとんどございませんし、起伏も非常に激しいところですし、また
未整備でして、いわゆる滑落等の危険箇所もあった」(宮台調書7 ページ)
一般の通行の機能は「ほとんどない」(宮台調書9 ページ)
ハイキングを少しでも楽しんだことのある人なら、あるいは、西山に登
ったことのある人なら、さらには、西山を麓から眺めたことがある人なら、
宮台の上記各証言が、「全部出任せ」であることを容易に見抜くだろう。標
高も低く、穏やかな山稜、尾根道の角度、それらから見ても、「年寄りでも
楽しめる山道」であることは容易に分かるからだ。それ以外に、本件では、
多数の書証、写真を提出しているので、宮台証人が「大嘘つき」であるこ
とは誰にでも疑問の余地なく理解できるだろう。なぜ、彼はこれほどまで
に鉄面皮な嘘つきで居られるのか?
 
さらに、呆れるのは、同証人は、上記のように西山尾根道をこき下ろし
ながら、西山尾根道に登ったことはなく、「ごく麓のところに」「市道認定
14
 

の議案を出す前に1回。後に1回」行っただけなのである(宮台調書30 ペー
ジ末尾)。
証人宮台は、西山尾根道の状況について、自ら経験した事実ではなく、
基本的には「部下等に聞いた」ことになっているが、真にそうだとしたら、
哀しいかな彼の部下も「みんな嘘つき」ということになるのである。
 
(2) 必要性の調査、地元説明、地元合意の欠如
上記のように、相模興業による採石場拡大事業の存在は、本件市道廃止
処分の理由にならないことは明らかであるが、手続上の観点からも、それ
が本来行政行為に期待される適正手続を欠くこと、その行為のプロセスか
らも、本件市道廃止処分の目的が「道路法上の目的とは無関係なところに
あること」などが歴然としているので、その点について、いくつか指摘し
ておく。
道路法における「道路網の整備」という視点からいえば、少なくとも次
の手続が必要と解される。
@ 廃止しようとする当該道路による交通に関しては、その「需要調査」
それに関連して、当該道路にアクセスする可能性の高い「地元の意向と
その調査」。
A 地元への十分な説明と納得を得る努力
B 付け替え道路、廃止道路の道路交通上の優劣の比較、維持管理費用等
の比較
少なくとも、原告川田利夫が厚木市の道路行政に関与していた当時は、
これらの手続が曲がりなりにも踏まれていたと見られる(川田調書4〜5
ページ)。さらに議会の審議に際しては、これだけの規模の大きい市道の
廃止・認定であれば、議会も現地調査をするのが当然という(川田調書5
ページ)。この点に関して、三平定邦のものと称する陳述書(乙13)には、
「平成15 年から都市経済常任委員会の現地調査は廃止されています」なる記
述がある(4 ページ)。もともと「現地調査」は「制度」として存在するも
15
 

のではなく、審議に際して、少しは熱心な議員であれば、現地調査を望む
のが当然であるから、「廃止されたかどうか」という問題ではなく、「現地
調査を望むだけのわずかな熱意さえもない者が議員になっている」という
事実を示すに過ぎない。
現実はどうだったか、花上、川田、荻田の3名の原告が縷々証言したこ
とから、次のことが明らかである(花上調書7〜8 ページ、川田調書6〜8
ページ、荻田調書3〜5 ページなお、甲45〜80 号証にも具体的な記述が多
数ある)。
第1に、地元に長くいる人、地元生え抜きの人でさえも、本件市道廃止
処分が厚木市議会に提案されるわずか2〜3 ヶ月前に至って、初めてそのよ
うな提案がなされることを知った(花上調書8 ページ)。地元自治会長を
していた原告川田でさえも、議会に提案される直前まで知らされなかった。
第2に、地元住民に対する厚木市としての説明会は、議会提案前には、
ついに一度もなかった。議会提案後の平成15 年9 月29 日に、荻野地区の
定例自治会連絡協議会にいわば「飛び込み」の形でたった一度だけ議題に
挙がっただけである(川田調書6 ページ)。
第3に、地元住民に対して、本件市道の廃止処分に関して意見を聞いた
り、意向調査をした形跡は全くない。付け替え道路に関しては、一度も説
明されたことも、地元のヒアリングもしていない。
第4に、西山尾根道の環境破壊や景観破壊については一切配慮していな
い(宮台調書12 ページ5 行目「特に配慮しておりません」と断言している)
第5に、維持管理費用の優劣を比較した形跡はない(被告担当者が、「未
供用」との被告主張にも拘わらず、維持管理していた事実を認めているこ
とは前述の通り)。
 
他にも多々あるが、ここで是非注目して頂きたいのは、最も利害関係が
深い地元住民を全く無視して、かつ、道路交通上の調査も一切なされず、
逆に、ぎりぎりまで、地元住民の本件市道廃止処分がなされる事実を秘匿
16
 

していた事実である。
これは、何を意味するであろうか?道路利用者である地元民を無視して
秘密裏に事を運んだ事実は、本件市道廃止処分が間違いなく、道路行政と
しての行為ではなく、相模興業の開発行為を強力にサポートするというこ
と以外に一切の目的はないことを示している。
道路行政に名を借りて、市民を欺き、厚木市と厚木市民にとっての貴重
な財産を相模興業の莫大な利益に奉仕するために売り渡した悪質な背任行
為。それが、本件市道廃止処分の実質的な意味である。これが違法である
ことに疑問の余地はない。
 
(3) 市議会の審議と議決に至る経緯
本件市道廃止処分に関して、厚木市議会は、そのチェック機能を喪失し
ていたと評すべきであろう。そのことは本件の争点と直接の関係がないの
で、省略するが、1つだけ述べておこう。
本件市道である西山尾根道が廃止され、破壊されることと、採石場拡大
計画との関連性については、地元住民も議会提案の直前まで気がつかなか
った。だからこそ、相模興業のアセスメント説明会に行っても、本件市道
廃止処分と如何なる関係があるのか考えもしなかったのである(荻田調書
3 ページ)。このような状況が実態であるから、相模興業のアセス説明会で
本件市道廃止処分の説明がなされたかのように言う証人宮台の云うこと
はでたらめである(宮台調書23 ページ)。そんなことはそもそもあり得な
いことは常識で分かる。
実は、議会も同じ誤謬に陥っていたと考えられる。平成11 年12 月に当
時の市議会議員柴田盛規氏が、被告に対して定例議会の際、「相模興業の採
石拡大計画にどのように対応するか」と質問したのに対して、被告は、そ
の5 ヶ月前に相模興業との間で、同社の採石拡大計画に協力する「覚書」
(甲27)を締結していたにも拘わらず、そのことについて一言も触れてい
ない。つまり、被告は、「議会をも欺いて」本件市道廃止処分を実現してき
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たのである。もちろん、議会は最後には採石計画との本件市道廃止処分と
の関連性に気がついたわけであるが、その議事録を読めば分かるように、
「相模興業が原因者」であるとして、あたかも、採石拡大計画が「既定の
事実」であるかのように説明する厚木市道路管理課長や道路部次長の「欺
瞞性」に気がつくことなく、議案を成立させてしまったのである。
 
5 被告の主張の変遷について
本件市道廃止処分の適法性に関する被告の主張は、実は様々に変遷してい
る。当初は、「相模興業の代理人でござ〜る」という調子で、採石場拡大計画
が他の諸手続をクリアしてきたことをもって、それとは無関係な本件市道廃
止処分の適法性を述べるという見当違いの主張を展開してきた。
その後の変遷の経緯をいまここで細かくあげつらうつもりはないが、突然
に言い出した「本件各市道は未供用」だとか、「西山尾根道は交通の実態がな
い」などの主張は、被告の「作戦変更」の現れである。
期日が延期された現時点では、さらに予想される被告の主張に対する原告
らの主張は、おって提出予定の本書面に関する補足書面で述べることとした
い。なお、被告が最終準備書面を提出するつもりがあるのかはっきりしない
が、いずれにしても前述の「胡散臭い新証拠」に関する検討は必要なので、
いずれにしても「もう一度」原告らの書面は提出する予定である。
 
6 本件市道廃止処分の違法は相模興業に対抗できる
本件市道廃止処分が違法だと認定された場合に、その違法が訴外相模興業
との関係でも主張できるかという点は、結構大切な論点であるが、これに関
する被告の反論がないので、今まで言及してこなかった。この点も、被告か
らの主張がなくても、職権による判断事項なので、補足書面で述べることと
する。
 
7 結語
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最終弁論期日が、来年2/7 に延期されたので、この「最終準備書面」も、
すぐに提出する必要はなかったのかも知れない。しかし、被告による「胡散
臭い書証の提出」以外には今回の弁論期日延期の理由もないと思われること、
最終準備書面の提出を遅らせたいために、被告の書証提出に文句を付けたな
どと誤解されたくないので、とりあえず、本書面を提出することとした。
なお、被告の上記書証をも検討して、補足すべきことが有れば、来年1月
中には、本書面の内容を補足する書面(場合によっては書証の追加もあり得
るが、その場合は、1月半ば頃までには追加する)を提出する予定である。
 
以上
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