平成17年(行ウ)12号 怠る事実の違法確認等請求住民訴訟事件

意見陳述の要旨

 横浜地方裁判所第一民事部合議A係 御中

 

                  2005年5月11日

                  原告を代表して  花上 義晴

 

1. 訴状の請求趣旨1に示す、被告が行った土地交換契約及び請求の趣旨2に示す、被告が行った市道廃止処分は、「地方行政は住民福祉の増進をはかることを基本とする」との地方自治法第一条の二の規定に著しく違反する。

   すなはち、上記1、2の処分とは厚木市の行政財産たる、厚木市道I−705号線(西山尾根道約10km)の内、約1.2kmとそれに接続する市道6路線を廃止して普通財産となし、採石業者相模興業(株)の山林(主に西山山麓部)と交換したことである。

   この交換により相模興業は、西山のうち高取山を、頂上部の長さ1.2km、頂上部からの深さ200mにわたり掘削できることとなり、30年間一日当り10tダンプ500台(往復1000台)分の膨大な商品(砕石骨材)を手中に収め、一方、市民は長期大量の公害被害に苦しむ事となった。

 

2. 西山の説明(写真を示しながら)

  西山は東丹沢の南東端に位置する。厚木市の西北部、旧荻野村域の西側に聳える経ケ岳630m・華厳山602m・高取山522mの三つの峰が連なる雄大かつ優美な山容の総称であり、古来より住民が愛着と誇りを抱き続けてきた郷土のシンボルである。

   この三つの峰を結ぶ一本の尾根道が、旧厚木市道I−705号線で、そのまま西山の稜線として、美しい景観を形成している。

   相模興業は昭和45年頃より、市道I−705号線の西側、厚木市飯山字華厳地区で70ヘクタールに及ぶ大規模な採石事業を継続してきた。

当時は西山尾根道保全のため、許可条件として、道路より水平5mの保安距離を取り、45度の勾配で10m掘削し、さらに、水平5mの保安距離・・・45度で10m掘削・・・を交互に繰り返し、ひな段状に残る掘削面に植生緑化を義務付けてきた。が、今回の市道付け替えにより、漸く植生緑化の効果が見えてきたひな段状の残地を含めて、西山を頂上から丸かじりに掘削できることとなった。

   市民は自分たちの財産であった市道が、市長の専横極まる付け替え処分によって、一企業の手に渡り、その営利のため百害あって一利もない事態におちいることとなった。主権在民の今日、許す事の出来ない暴挙と言うべきである。

 

3. 本件被告による住民福祉の侵害に対し、声をあげることの出来ない人たちの声なき声を代弁してみたい。

   その第一は子供たちである。

私たちは小学生の頃、先生から

        西山の天辺で、貝の化石がよく見つかること。

        尾根道は、昔、山伏が修行のため歩いた道であること。

        西山は夏でも鶯が鳴いている。文化9年(1813年)に土地の俳人小林芹江が、『この山や この鶯に 人も居ず』の句を詠み、山頂の大石に刻んだ「発句石」のこと。

  等の話を聞かされ、それは今日まで続いている。

   また荻野古謡に

        何を怒るか西山わらび 九十九谷戸に春が来る

        田尻田んぼの辻の池 月の澄む夜は夜もすがら はた織るをさの音がする

        西に西山 東に鳶尾(とんびょー) 中を流れる荻野川

等々がある。さらには昭和26年、敗戦から立ち直ることを願って旧荻野村が創った荻野音頭(中村雨紅作詞・細川純一作曲)、そして現在の荻野小、中学校の校歌。それぞれに西山とその背後に重なる丹沢大山の嶺々、前に広がる里山の風景と人々の暮らしが愛情豊かに謳われている。

 子供たちは、小中学校の式典や地区のイベントはもちろん、折に触れては校歌や荻野音頭を歌い西山を讃えている。その無心に一心に歌う歌声の中で人間性が養われ郷土愛が育ってゆく。 

被告厚木市長の本件処分は、子供たちの目の前で、西山を削り、ふる里の代表的景観を消し去ってしまう。「西山を削ることは子供の心を削ることである」。許し難い仕打ちと言わなければならない。

子供たちは、本件西山尾根道事件につき、現段階で公害を予測し声を上げることはできない。しかし、近い将来、西山が削られてゆく事実に直面した時、大きなショックを受けることは間違いない。

ここで、自然破壊によって童心が傷つけられた実例を、昭和48年4月の朝日新聞の記事を中心に、紹介してみたい。この事件は厚木市有地を含む鳶尾山を買収した採石業者の乱開発で、災害のおそれから事業がストップした鳶尾山岩石乱掘問題のことである。

近隣小学校の遠足やハイキングで親しまれている鳶尾山が、昭和45年頃より採石業者の乱掘で山頂が裸になり始めた頃の、麓の荻野小学校5年生の4人の作文である。

 

「4年生の時登った道はもう無い。崩された所へ行ったら、すぐ下までダンプが登ってきていた。僕はもうこの山も全めつだと思った」

 

「鳶尾山は二度と元の姿に戻らない。あんなへんなかっこうの鳶尾山になるとわかっているのに、なぜ大人たちは鳶尾山を売ったんだ。鳶尾山だって大人たちをにくんでいるにちがいない」

 

「お金の力にあやつられる人はみじめだと思う。自然がどんなに大事なものか、私は訴えてやりたい。青空にそびえるあの美しい鳶尾山を見ると、どんな大金持ちでも買えないとうとさがそこにある」

 

「僕はブルを運転しているおじさんに、大声で「バカヤロー」と叫び、逃げて帰ってきた」

 

 童心を傷つける乱開発。今回の本件もまた、一企業に市道を提供し、乱開発に手を貸し、童心を傷つけて恥ない。市民不在も極まれり、と言うべきである。

 

第二の声なき声は、福祉施設の人たちである。

西山頂上のすぐ下、里山の山懐に、紅梅学園・野百合園・精華園・敬和荘等の福祉施設がある。西山の自然豊かな環境に立地した、これらの施設は、今後、粉塵や騒音に悩まされ、山容が消えて環境が一変することになる。

社会的弱者と言われる人たちの安らぎや、その生活に、一顧だにせぬ被告の所業は人間愛の片鱗さえ見えぬ、まさに暴挙としか言いようがない。

 

以上、これらのことは全て、被告厚木市長が市民を無視して行った、「西山の市道廃止・付け替え」に起因しているのである。

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